〔コラム〕社長が変わるということ

決断する力

社長交代がもたらす“静かな衝撃”

社長が交代すると、職場の空気は、別の色に変わる。
報告書は日本語と英語の併記に、紙資料は全面禁止──。
準備が整っていなくても、「明日から」の号令は迷いなく下される。

その日、現場には小さなざわめきがあった。
「急だ」「実情が伝わっていない」
チームメンバーの不満が、静かにたまっていくのを感じていた。

副リーダーとしての“静かな決断”

当時、私は副リーダーだった。
メンバーの戸惑いと不満は、痛いほど伝わってきた。このままメンバーにやれと言っても収まりそうにない。私は、わざとメンバーに聞こえるように総務へ電話した。

「明日からの対応は現実的ではありません。
現場の準備は整っていないですよね。状況は上まで伝わっているのでしょうか。」

これはチームの“代弁”だった。電話一本でどうこうできるものではないのは分かっていた。
ただ、誰かが言葉にしなければ、空気が押しつぶしてしまいそうだったからだ。

リーダーの一言が突きつけた“立場の重さ”

電話を切ると、リーダーに呼ばれた。

「今の意見は組織の公式見解じゃない。
個人の意見だと、先方に補足しておいてくれ。
……社長が変わるっていうのは、そういうことなんだよ。」

淡々とした口調だった。
まっすぐで、正しい。だからこそ、何も言えなかった。

だがその裏で、静かな悔しさが胸を締めつけていた。
あれは“個人の意見”ではない。
現場の息づかいを伝えた、ただそれだけだった。

救われた「わかってますよ」の一言

補足のため、総務のリーダーを訪ねた。
事情を話すと、彼は笑って言った。

「大丈夫ですよ。わかってますから。」

その静かな一言に、張りつめていたものがほどけた。
あの日の「わかってます」は、今でも胸に残っている。

あの経験が、今の自分の軸になっている

チームを守りたかった。
評価されなかったとはいえ、私は副リーダーとしてその時に自分が果たすべき役割を果たした――今でもそう信じている。

ちなみに、あの時の上司も総務リーダーも、その後会社の中核を担い役員待遇まで昇進していった。

社長が変わるということは、
ただトップが入れ替わるだけではない。
空気が変わり、やり方が変わり、立場が変わり、組織も変わる。

仕事をしていると、悔しさも情けなさも、いろんな感情がぶつかってくる。
でも、そういう経験が、少しずつ自分の中の「軸」みたいなものを作っていくのだと思う。

あの日の空気は、今も忘れられない。

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