第十部 全体最適 第114章 方針は、言葉ではなく事実に表れる

全体最適

経営理念やビジョン——会社が何のために存在し、どこへ向かおうとしているのかを示す言葉は、現場のメンバーからするとどこか遠いものに見える。正直、私も管理職になるまでは自分の仕事と関係なさそうに感じていた。

前章では、部長が社長を見ているのは方針の軸に合わせるためだとして、では、課長は社の方針をどこから読み取ればいいのか。第111章で、理念を語る必要はないが、理念の方向に視線を向けておくことは必要だと書いた。視線を向けるとは具体的に何をすることなのか。

もちろん部長から直接指示や方針が説明されることが多いだろうが、それ以外に課長として日ごろから何に注目しておくべきか、私の備忘録として記しておく。

見るべきは、事実のほうだ

方針を語る言葉は、たいてい抽象的で、どうとでも読める。読むべきは、事実のほうだ。

予算がどこに配分されたか、何が目玉事業と言われているか、株主総会でどのような説明がされたか、決算資料にどのような記述があるか、そして人事異動でだれがどこに動いたか。

ここで課長に求められるのは、金と人の配分と、社内外へどのようなアピールがされているかに注目しておくことである。これらの事実情報から、社の方針や重点事業が見えてくる。

第109章で、気づく力は「危機感 ×(知識 + 経験)」だと書いた。方針に関する事実は、この式でいう「知識」にあたる。危機感や経験は一朝一夕には積み上がらないが、知識は意識して集めれば増やせる。集めておけば、方針の読みで大きく的を外すことはないはずだ。

現場に合う形にして、降ろす

なお、課長が現場に情報を渡す場合は、たとえば「お客さま第一」という理念が掲げられているとしたら、「問い合わせには1時間以内に初回応答を入れる」といった形に翻訳して渡すことになる。渡す内容は、自分のチームに必要な情報に絞り、より具体的な現場の言葉にする。

伝え方そのものは、以前『伝えたつもりが伝わらない本当の理由』(第44章)や『「つべこべ言わずに言われたとおりやってくれ」って?——背景と目的の共有の意味』(第五部コラム)で書いたので、ここでは繰り返さない。

もうひとつ現場に情報を渡すポイントとして、タイミングがある。いつ渡すかは、会社や案件によって変わるので一概には言えない。ただ、同じ内容でも時期を外すと届かない。これは私自身難しいと感じているところであるが、早ければ早い方がいいとも言い切れない。ここぞという場面は経験で測るしかないかもしれない。

この章で言いたいのは、理念や方針を部下に伝える際は、具体的な人や金の動きを見つつ、部下が働くうえで必要な形(具体的な行動の指示など)に変えて、タイミングよく渡すということだ。それが、中間管理職の腕の見せ所だと思っている。

でだ、まぁそりゃそうだが、目配りや翻訳がうまくいったとして、現場で動いたのは部下であって、全体最適に目を配りながら動かしていること自体は成果として見えにくいよなぁ、とか、他チームと調整するにしても必ずしもチーム固有の成果につながらないんじゃないか、と感じることもあると思う。

次章予告

他部署の目標を毎期眺めることも、部長の都合を想像してみることも、理念や方針を翻訳して部下に伝えることも、直ちに成果として数えられるものとは言えない。それをどう引き受けるか、を次章に記したい。

読者への問い

あなたの会社で、直近に予算や人が動いたのはどこだろうか。そこに、どんな意思が表れているだろうか。

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