自分の主張の準備より、相手を知ることが先だ
多くの人は、自分の主張を整理し、想定される反論への答えを用意し、数字やデータを揃えることに時間をかけるだろう。たしかにそれは必要である。
しかし、自分の理論武装ばかりに集中して、相手がどんな立場にあるのか、どんな事情を抱えているのか、まるで頭にないまま話し始める。結果として話がかみ合わず、「なぜわかってくれないのか」と苛立つ。課長になったばかりのころの私がまさにそうだった。
相手を知ることが、信頼への最短距離
たとえば初めて訪問する取引先なら、どんな製品やサービスを展開しているか、本社はどこか、創業はいつか、社長はどんな人か。こうした基本情報も知らずに、自分の主張だけを携えて突入しても大した交渉はできない。
相手に関する情報を事前に押さえておくだけで、会話の質はまるで変わる。
官公庁や協力会社の場合も同じだ。所管の分野や最近の政策、組織の構成や人事の動きを把握しておくことは、相手への敬意を示すひとつの形でもある。
人は「自分に関心を持ってくれている」と感じた相手に対して、自然と心を開く。これは理屈ではなく、人間の本質的な反応だ。
情報収集は落としどころを探るための「会話の設計図」でもある
こうした事前の情報収集は、単に好印象を与えるためではない。相手のミッションや立場を踏まえたうえで話を構成すれば、余計な誤解が生まれず、こちらの提案にも説得力が出る。相手の事情がわかれば交渉前に落としどころが見えてくることもあるだろう。
『敵を知り己を知れば百戦危うからず』という言葉は誰でも知っている。しかし交渉の準備となると、つい自分の主張ばかりに集中してしまう。意識的に心がけないと、相手を知ることは意外と抜け落ちるものなのだ。
読者への問い
あなたは交渉に臨む前に、自分の主張の準備と同じくらい、相手のことを調べていますか。
次章予告
次章では、対外的な場面でリーダーとしての説得力を高める、外見と所作について取り上げる。
