第八部 人事評価と部下育成 第90章 記録とエピソードが評価の命──それでも拾いきれない貢献がある

人事評価

評価項目を整理し、シンプルな視点で捉え直すと、評価の道筋はだいぶ明瞭になる。ただ、それでも評価はやはり難しい。「人を評価する」という行為には、どうしても主観が入り込む。だからこそ、その主観を支える「記録」と「エピソード」が欠かせない。

キーワードでいいから、書き留める

第87章で「部下一人ひとりの仕事ぶりを日々観察し、記録を残すことは難しい。」と書いた。しかし、それが王道であることは間違いない。正直、完璧からは程遠いが、私も日々の行動ややり取りの中で印象に残った出来事をメモするようにしてはいる。例えば、朝のミーティングでの一言、誰かをサポートしていた場面、クレームやトラブルにどう対応したか──ほんのキーワードで構わない。あとから思い出せる程度であっても、書き留めておくと大きな助けになる。

こうした記録があると、期末評価の本人への伝達のときにも「どうやって成果を出したのか」「どういう姿勢で仕事をしていたのか」を具体的に思い出しながら説明できる。特に「業務遂行力」「業務姿勢」「周囲への影響」といった領域は、記録がなければ印象だけに頼らざるを得ず、どうしても評価に偏りが出てしまうように感じる。

記録の形式は何でもいいが、例えば、紙のノートで部下それぞれ一人1ページ用意しておき、何かあればそのページに記す。忘れる前に残すことが大事だ。多少曖昧でもざっくりでも構わない。それが後日「そういえば」と思い出す手がかりになる。

それでも、拾いきれない貢献がある

ここまで書いておいてなんだが、告白すると、この方法でもうまく拾えない部下がいる。

静かに、真面目に、黙々と働くタイプだ。トラブルを起こさない。声も大きくない。残業も多いわけでもない。でも気づけば自分の仕事をきっちり終えている。こういう部下は、記録に残るような「印象的な一コマ」を作らない。派手な活躍がないからメモのきっかけがなく、結果として記録がいちばん手薄になるのが、実はこの真面目な働き手たちなのだ。目立つトラブル対応や、会議での鋭い一言は記憶に残る。しかし「今日も静かに、確実に仕事を終えた」という事実は、何も起きなかった日として流れていく。

書いていて改めて思ったが、こういう波風を最小限に抑えつつ結果を出していくというのは、私の理想の仕事ぶりと言ってもいいぐらいだ。が、皮肉なことに、手のかからない優秀な部下ほど、評価の記録から抜け落ちやすい。

第88章に記載のとおり係長との連携で表に出にくい貢献を吸い上げる、というのが一応の対策ではある。だが、それも万能ではない。係長自身も、目立たない働き手の地道さを言語化するのは難しいからだ。

ここは私自身、いまだに答えを出せていない領域だ。静かな貢献をどう可視化し、どう評価に反映するか。記録という武器を持ってもなお残るこの宿題を、私は抱えたまま毎年の評価に向き合っている。

それでも、記録をやめない理由

記憶は曖昧だが、記録は残る。多少あいまいな記録でも、ないよりは圧倒的にマシだ。拾いきれない貢献があると分かっていてなお、「とりあえずメモしておく」。拾える分だけでも書き留めておく。

プレーイングマネージャーだったりすればこれだけでも簡単ではない。それでも人事評価者として日常の一コマ一コマが未来の評価をつくる──その意識は常に持っていたいと考えている。

読者への問い

あなたは部下を評価する際に、どのような「記録」や「エピソード」を残しているだろうか。そして、目立たないけれど確実に貢献している部下を、きちんと見られているだろうか。

次章予告

記録もエピソードも、主観を客観に近づける手がかりだ。しかしそれでも、評価者一人の目には限界がある。次章では、その限界を踏まえ、評価の「すり合わせ」をどう実現するかを考えていく。

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