初動で血迷えば、すべてが後を引く
リーダーは、危機の際の初動の要である。初動で血迷えば、その影響は長く尾を引くことがある。逆に、初動さえしっかり乗り切れば、被害の拡大を防ぎ、平時に戻す道筋が見えることも多い。
何か起きたときに判断し、指揮を執るのはリーダーである。「これは危機だ」と認定するのも、誰に何をどう伝えるかの方向性を示すのも、チームの初動を動かすのも、最終的にはリーダーの役割だ。
ただし、誤解してはいけない。初動は本番の出来事に見えて、その中身は起きる前に決まっている。危機のさなかに新しく編み出せることなど、たかが知れているのだ。
初動は平時に決まる
では、危機が起きたときに血迷わないためにはどうすればよいのか。答えは単純である。平時に備えておくしかない。
リーダーが平時にやるべきことは大きく二つある。
- 危機ごとの初動ルールを確認しておくこと
- それをチームで即座に動ける状態にしておくこと
実際、多くの組織には危機対応のルールやマニュアルが存在する。現場事故、重大クレーム、情報漏洩、社員の不祥事、ネット炎上、社屋火災――。内容の差はあっても、一定の手順は整備されていることが多い。
問題は、その存在を知っているかではない。危機が起きた瞬間に使える状態になっているかである。
マニュアルは、平時に読み、現場でも開く
トラブルが起きたとき、「なに?事故?まず何をするんだっけ?」となりがちだ。人は緊急事態になると冷静さを失う。だからこそ、平時に確認しておく。
自分の事業所の事故対応手順はどうなっているのか。
- 誰に報告するのか
- どの順番で連絡するのか
- 何を記録しなければならないのか
最低限、それだけでも頭に入れておきたい。
とはいっても、頭に入れたつもりで動くのは実は危ない。緊急事態に直面した時、自分の記憶が正確である保証などない。だから危機の現場では、面倒でもマニュアルを開いて確認する。それが理想である。
平時に読んでおくのは、現場で確認しなくて済ませるためではない。現場で開いたときに、素早く正しくたどり着くためである。
「誰が・何を・いつ・誰に伝えるか」を明文化する
そのうえで特に重要なのは、「誰が・何を・どのタイミングで・誰に伝えるか」を明確にしておくことだ。
役職名だけでは、いざというとき現場が”誰に”かければいいのか迷う。かといって実名だけでは、その人が異動した瞬間に使えなくなる。だから私は、役職名と実名を併記するようにしている。たとえば、
- 総務課長(山田太郎)
- 安全衛生担当(鈴木花子)
といった形である。組織によっては連絡網に個人名を載せない方針もあるだろうから、そこは自分の職場のやり方に合わせればよい。肝心なのは、現場が迷わず手を伸ばせる状態になっているかどうかだ。
課長として着任して間もない頃、緊急連絡網が前任者の名前のままになっていることに気づいた。担当に確かめると、悪気なく「来週までには異動に伴う修正を行います」と言う。だが、危機は担当者の段取りを待ってはくれない。その『いざ』が来週より先に来る保証などどこにもない。私はすぐに改定するよう指示した。
連絡先の情報を、異動のたびに更新すること。また、チーム全員がその内容を把握していること。リーダーだけが知っていても意味がない。
地味な仕事だが、危機の瞬間にチームを守るのは、こうした平時の積み重ねである。
次章予告
平時の備えが整っていても、実際に何かが起きた瞬間、人は冷静ではいられない。次章は、危機に直面したときの心構えと、初動でまず何をするのかを考えたい。
読者への問い
あなたは、自分の職場の危機対応マニュアルを最後に読んだのはいつだっただろうか。
