想定内と想定外の危機
ここまでは、定期的に発生する「想定内の危機」を念頭に記述してきた。だが、滅多に起きないが一度起これば致命的な被害をもたらす「想定外の危機」もある。
本章では後者――大規模自然災害のような「低頻度・高インパクト」の危機について考えてみたい。もっとも、最近も2026年熊本地震で大きな被害がでたように近年は豪雨や台風、河川氾濫、地すべりなどが頻発しており、大規模自然災害だからと言って「想定外」が通用しなくなってきているが。
原則は変わらない
実は、私は東日本大震災発災直後に「まずなにをするんだ?」と聞かれて絶句した経験がある。当時は管理職ではなかったので勘弁してくれよと言いたかったが、危機管理を日ごろから意識しているかどうかが管理職と平メンバーの違いだという認識は、そこからきている。
平時に整備された初動マニュアルを超えているような場合。それでもリーダーは以下の行動原則だけは頭に入れておこう。
- 自身の安全確保
- 事実確認と関係部門への連絡
- 被害の拡大防止
この三つを指針にすれば、混乱の中でも立ち戻る軸を失わずに済む。
実際は「仕事どころではない」
東日本大震災レベルの災害では通信の遮断、停電、断水、自宅の損壊、家族の安否不明といった事態が一度に襲ってくる。そうなるとマニュアルやBCP(事業継続計画)を超えたところとなり、対応の難度は極めて高い。
私は、とにかく最初に考えるべきはリーダー自身と家族の安全確保だと考える。自分が無事でいなければチームを率いることはできない。これは利己的ではなく、むしろ現実的な順序だ。例えば、スマホが輻湊して使えない場合どうするか、家族と話をしておくとよい。
組織に戻れたときに
幸いにもリーダーとして現場に立てる状況なら、先ほどの三原則に沿って以下の行動をすると私は決めている。
- 行政の発表する状況情報や避難指示等の確認
- 避難が必要であれば避難
- チームメンバーの安否確認
- (社関連の)被害情報の集約
- 社内外への報告・連絡
- 被害拡大防止措置
このうち被害拡大防止措置については、場合によっては報告・連絡より優先されることもある。前章で人命の確保は報告に先立つと述べたそれである。
そして上司と連絡がつけばその指示に従い行動するのは当然として、ライフラインの復旧に合わせて、平時に策定したBCP計画などを拠り所に「できること」から実行していくことになる。
それでも、判断は迫られる
もっとも、上記の順序どおりに事が運ぶわけではない。避難させるか待機か。この情報を信じてよいか。操業を止めるか続けるか。上司と話ができればいいが、連絡がつくとは限らない。
三原則に沿って動こうとしても、その一つひとつの場面で判断を求められる。しかも、判断に必要な情報はたいてい揃っていない。
こうした場面での構えについては、以前「情報がない中で判断を迫られたら」(第31章)で書いた。最悪だけは避けること。そして、あとで修正できる道を残しておくこと。この二つである。ただ、そうは言っても、この規模の危機となると「最悪の事態」も自身の認知の範囲内で想定するしかなくもはや腹をくくるしかない。
「準備していたこと」が力になる
大規模自然災害のような低頻度の危機においては、絶対の正解はない。ただ、何も準備していなかった、と途方に暮れることがないように自らの行動原則を準備しておきたい。
次章予告
ここまでは、起きてしまった危機にどう向き合うかを書いてきた。理想は、危機が形になる前に気づくことである。次章からは、「気づく」ということについて考えたい。
読者への問い
あなたの組織には「低頻度・高インパクトの危機」に備えた最低限の行動指針があるだろうか。またリーダーとして、「まず自分と家族を守る」という覚悟を周囲に伝えられているだろうか。
