危機が起きたとき、そこで出るのは、それまでの備えである(第104章参照)。日頃どれだけ良い仕事をしていても、危機対応に失敗すれば、組織に深刻な損害を与えかねない。
そして厄介なのは、「危機」は突然にやってくるということだ。慌てないためには、「慌てなくてすむ準備」と「慌てない覚悟」が必要になる。
平時とは違う、危機時の心構え
最初に重要なのは、リーダーが「これは危機だ」と認識し、モードを切り替えることだ。「この程度なら平気だろう」と軽視して被害を拡大させる例は後を絶たない。
危機だと判断したら、まずはチームに「今から危機対応に移る」と宣言する。これにより平時の業務よりも危機対応を優先し、リソースを集中させることができる。
この宣言は、チームに向けたものであると同時に、自分自身に向けたものでもある。ここから先は、判断の速さも、報告の頻度も、仕事の優先順位も、すべてが平時とは違う。そのことを、まず自分に納得させる。リーダーが平時の感覚を引きずったままでは、チームだけが切り替わることはない。
そしてこの宣言には、もうひとつの働きがある。何をやるかを絞ると同時に、何かをやらないことを自分に許すことだ。危機のさなかに平時の基準を持ち込めば、あれもできていない、これも滞っていると、自分で自分を追い詰めることになる。今は後回しでよい、と線を引く。範囲を区切るからこそ、目の前の一点に全力を注げる。
私は、平時の構えとして対話を通じて納得を作ることの重要性を説いてきた。だが、危機時はそれをやる時間がない。ここから先は私が決めて指示を出す、と明示することも、モード切替の一部である。平時に信頼を積んでおけば、この切り替えもスムーズにチームに受け入れられるだろう。
そのうえで、事前に定めたルールに基づき指示を出す。ルールがなければリーダーが即断するしかないが、それでは誤りも生じやすい。だからこそ、平時からルールを明文化し共有しておく(第104章参照)。
そのうえで、事前に定めたルールに基づき指示を出す。ルールがなければリーダーが即断するしかないが、それでは誤りも生じやすい。だからこそ、平時からルールを明文化し共有しておくことが最大の備えとなる。
初動対応 ― 血迷わないために
危機対応で最も難しいのは初動である。大きな事故やトラブルでは、情報は錯綜し、現場は騒然とし、感情的になりがちだ。だが、モードが切り替わっていれば、そのただ中でも浮足立たずに済む。平時とは違うと分かっていること自体が、冷静さの土台になる。
基本は次の通りだ。
- 人命を最優先 ― 災害や事故では、まず社員や関係者の安全を確保する。他のすべてに先立つ。
- 迷わずマニュアルを確認し、指示を出す ― 記憶に頼らず手順にあたる。マニュアルを開くのは、迷いを断つための行為である。完璧な情報が揃うのを待てないからこそのマニュアルだ。
- 情報を集め、管理する ― 確実な情報源と憶測を区別し、誤情報の拡散を防ぐ。同時に、上司や関係部署への報告に備えて、正確な一次情報を押さえにいく。
この「初動の質」が、後の危機対応全体の質を大きく左右する。
次章予告
初動で押さえた事実は、しかるべき相手に、しかるべき早さで伝えなければ意味がない。次章では、緊急時における報告の基本とルールの整備について取り上げる。
読者への問い
あなたは、突然の危機に直面したとき「これは危機だ」と即座にモードを切り替えられるだろうか。
