多くの会社で採用されているMBO(目標管理)には、期末に本人が「自己評価」を書く運用がついている。期初に立てた目標に対して、どの程度達成できたかを自分で記述する形式だ。一見フェアに見えるが、正直、私はこの自己評価制度に懐疑的だ。
自己評価の「効能」は認める。しかし
先に断っておくと、自己評価制度の言い分は理解しているつもりだ。上司が見えていなかった仕事を本人が申告する機会になる。本人の自己認識と上司の認識のギャップが可視化される。そして、一期を振り返ること自体が内省となり、成長につながる――。
だが、現場で長く運用を見てきた実感として言えば、これらの効能はいずれも「本人に採点させること」を必要としない。見えていなかった仕事は、事実を報告してもらえば拾える。振り返りの価値は、A・B・Cの記号を自分につけることではなく、何をやり、何が起きたかを言語化することにある。効能は残し、採点だけを外せばいい。
自己評価は「自己採点」になりがちだ
典型的な自己評価はこうなりがちだ。
「目標には届かなかったが、精いっぱい努力したのでAだと思う」
これは”自己採点”であり、評価の役割を本人に委ねてしまっている。評価は上司の仕事だ。なぜなら、評価には説明責任が伴うからだ。なぜその評価なのかを本人に説明し、処遇に反映させ、その結果を引き受ける。この責任を負えるのは、権限を持つ上司だけである。責任を負えない者に採点をさせるのは、制度の設計として筋が悪い。評価は感情ではなく事実に基づくべきであり、その判断の責任は評価者が持つべきだ。
声の大きい人が得をし、謙虚な人が損をする
さらに見過ごせないのは、自己評価が性格特性の影響を強く受けることだ。
自己主張が得意な人は、自分の成果を大きく見せ、高い自己評価をつけてくる。一方、謙虚な人や控えめな人は、十分な成果を出していても自分を低く見積もる。
問題は、評価者が、本人が先につけた「A」や「B」という記号に引きずられる恐れがあるということだ。自己評価が判断の基準点になってしまい、そこからの微修正で最終評価を決めてしまう。「共通のレンズ」で見るべき評価の視点が、各人がバラバラの物差しで自分を測った数字を起点に始まってしまうのだ。その結果、声の大きい人が得をし、黙々と働く人が損をしかねない。
これは前章までで繰り返してきた、「静かに成果を出す人ほど評価から漏れやすい」という問題(第90章参照)と、根は同じだ。自己評価制度は、放っておくとこの偏りをさらに広げる装置になりかねない。
必要なのは「自己評価」ではなく「事実報告」
では本人の声は不要かといえば、そうではない。必要なのは「自己評価」ではなく「事実報告」だ。結果とプロセス、根拠となるデータ、主要なエピソード。これらを簡潔に共有してもらえれば、十分に判断材料になる。
私が本人に求めたいのは、次のような事実報告の型だ。
- 目標と期待役割
- 結果(数値・アウトプットなどの成果)
- 主な寄与行動や工夫
- 未達要因の整理(自力で解決できるものか、外部要因か)
- 次の一手(翌期の打ち手をひとつ以上)
もちろん、事実報告でも寄与行動や未達要因の書き方には、本人の主観がにじむ。だが採点との決定的な違いは、事実報告にはそれぞれ根拠がついてくることだ。数値、アウトプット、エピソード。これらは評価者が裏を取れる。検証できる形式で出させることが、性格特性による偏りへの防波堤になる。「自分はAだと思う」という検証しようのない感想ではなく、検証できる事実を並べてもらえば、評価する側はそれを材料に、自分の責任でジャッジできる。
評価は「管理の道具」ではなく「育成の場」
だから重視すべきは、期中の指導と評価面談である。評価面談では、なぜ高く評価したのか、なぜ期待に届かなかったのかを、事実に即して共有し、次の行動に落とす。ここで本人からの補足があれば、再評価の余地も生まれる。見えていなかった仕事を拾う機会は、自己採点ではなく、この対話の中にこそある。
評価は最終ジャッジであると同時に、育成の道しるべでもある。制度を「管理の道具」にとどめず、「育成の場」として機能させる。私はその構図を、こう整理している。
- 自己評価は、不要。業績とプロセスの事実報告で足りる。
- 評価面談は、必要不可欠。理由の説明と今後の助言こそがコア業務だ。
- そして期中の指導が、最重要。評価は期末の通告ではなく、日々の対話の延長で行うものだ。
もっとも、自己評価欄が制度としてすでに根付いている職場も多いだろう。その場合に、自己申告と実際の評価がズレたらどう向き合うか。その現実的な対処は、次のコラムで触れたい。
章末の問い
自部署の運用で、自己評価がリーダーの判断を歪めている場面はないだろうか。
次章予告
人事評価についてはここまでで一段落としまして、この後、コラムさらにテレワーク時代の人事評価に係る質問に答えたいと思います。
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