第九部 危機管理 第110章 第九部を振り返る~危機管理で押さえるべきポイント~

危機管理

第九部では、危機管理を取り上げてきた。教科書的な網羅性はないが、緊急事態に、これだけは押さえておけば血迷わずに済む――そう私が考えるポイントを書いてきた。

危機は避けられない。だが、型はある

備えていても、起きるときは起きる。むしろ管理できないからこそ危機である(第103章)。だから危機管理とは、危機をなくすことではなく、起きる前提で被害を最小限に抑える準備をすることだ。

危機の只中でどう動くかに万能の型はない。だが、その前後――平時の構え、起きた直後の初動、そして危機の芽に気づく力――には、私なりのキーポイントがある。

押さえておくポイント

平時の準備が、すべての土台である

マニュアルは平時に読んでおく。緊急連絡網は役職名と実名で管理し、異動のたびに更新する。地味な仕事だが、危機の瞬間にチームを守るのはこの積み重ねだ(第104章)。

危機だと判断したら、宣言してモードを切り替える

それはチームに向けた号令であると同時に、自分自身への宣言でもある。ここから先は判断の速さも報告の頻度も優先順位も、すべて平時とは違う。危機対応を優先し、逆にやらなくていいことはやらないと割り切らざるを得ない。

そしてモードを切り替えた後はトップダウン。平時の対話で信頼を作れていれば、この切り替えは受け入れられると信じている(第105章)。

初動の順序は、人命・マニュアル・情報

危機管理のポイントは、なんといっても「初動」だ。とりわけ人命の確保は他のすべてに先立つ。さらに、マニュアルは記憶に頼らず現場でも開いて確かめることを忘れない。事実確認のための情報収集は、確実な情報源と憶測を区別しつつ、上司に報告できるようとりまとめる(第105章)。

報告は、速さが優先する

「不明」は立派な報告事項である。「不明」なら「不明」と報告してくれと部下に指示することだ。これは自らが上司に報告する際も同様である。

併せて、速報と後の事実が食い違っても、それは責めるべきことではない。「前と違うじゃないか」ではなく「更新ありがとう」と受け止める(第106章)。

マニュアルを超える事態でも、三本柱は変わらない

①自身の安全確保、②事実確認と連絡、③被害の拡大防止。この三つを指針にすれば、混乱の中でも立ち戻る軸を失わない。大規模災害では、まず自分と家族の安全確保が先である。これは決して利己ではない(第107章)。

それでも判断は迫られる

マニュアルなどは「何をするか」を教えてくれるが、「どう決めるか」までは教えてくれない。情報がないまま決めるときは、最悪を避けること、あとで修正できる道を残すことに心がけよう。とは言っても、実際には難しいし、正解があるわけでもないが、腹をくくらざるを得ないのが危機管理の場面だ(第107章第31章)。


要するに、平時に準備し、起きたらモードを切り替え、将来の話よりまず目の前の現場対応に集中する。それだけ頭に入れておきたい。

型を動かすのは人である

型があっても、それを動かす人がいなければ何も起きない。第九部の後半で書いたのは人の話だった。

違和感は、だいたい当たる

まず、課長に必要なのは、鋭く察知することもさることながら、いったん上がってきた懸案をちゃんとフォローし放置しないことだ。放置された時間が、小さかったはずのものを大きく育てる(第108章)。

気づく力は、センスではない

気づく力=危機感×(知識+経験)である。前提となる危機感はセンスから生まれるのではなく、リーダーとしての責任感から生まれると考える。なぜなら、真の意味でリーダーの役割を引き受けたなら、危機感は自ずと湧くものだからだ(第109章)。

気づく力が、平時の準備を動かす

実は、第九部の前半・後半は、別々の話ではない。

平時にマニュアルを読もうと思うのも、連絡網の名前が古いことに引っかかるのも、危機感があるからだ。危機感がなければ、準備の必要性そのものに気づかない。「来週までに直します」と言われて、そのまま流してしまう。

気づく力は、危機の予兆を察知するためだけのものではない。平時の準備を怠らせないための原動力でもある。

隠さない方が、結局は楽である

第九部は、災害や事故といった外から降ってくる危機に寄っている。東日本大震災の記憶が私自身に大きな影響を及ぼしたからである。

一方で、内側から出てくる危機――部下の不祥事、情報漏洩、信用にかかわる事案――については、現役の課長として書きにくいという事情もあり、あまり触れていない。ただ、答えははっきりしている。隠蔽などせず、認めるべきは認め、謝るべきはしっかり謝る。正々堂々としていられる状態にしておくことこそ、平凡だが、唯一の型だと考えている。

これは辛いようでいて、逆に一番楽な道でもある。隠せば、その後のすべての判断が「隠し通せるか」に縛られる。選択肢が減っていく。正面から受け止めておけば、少なくとも自分の手は自由でいられる。

日常の危機にも効く

大規模災害を軸に書いてきたが、ここで書いた作法は、日常の危機にもそのまま使える

部下がミスを報告してきたとき。クレームが入ったとき。取引先との段取りが崩れたとき。――「不明」でも報告させること、更新(当初報告の訂正)を責めないこと、まず事実を押さえること、懸案を落とさずに追うこと。どれも震災の話ではない。身近な緊急事態にも通用する話だ。

東日本大震災の直後、上司に「で、まずなにをするんだ?」と聞かれて絶句したことは第107章で書いた。あのとき私は係員だった。リーダーと、そうでない者との違いは、能力ではない。危機を常に意識しているかどうかである。

追伸 復習用資料

第九部「危機管理」の要点をまとめた復習用資料を用意した。興味があればダウンロードして使ってほしい。

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