第八部 人事評価と部下育成 第97章 周囲への影響(チームへの貢献)を育てる

人事評価

部下にはまず「協調性」を求める

前章までで、個人の「遂行力」と「姿勢」を育てた。最後は、その力をチームへ波及させる番である。

評価の最後の視点は「④周囲への影響(チームへの貢献)」である。一般的な評価項目で言えば「協調性」や「後輩の育成・指導」が含まれる第89章参照)。そのうち、まだ他者を指導する立場にない部下に対しては、まずチームの実務を円滑に回すための「協調性」を育てなければならない。

協調性とは「仲良しクラブ」を作ることではない

では、部下の協調性をどう育てるか。ここでも前章と同様に、「判断軸の再設定」が必要になる。

多くの人が誤解しているが、ビジネスにおける協調性とは「職場の空気を乱さないこと」や「同僚と仲良くすること」ではない。自分のタスクの枠を超え、困っている同僚をそっと助け、仕事の遅れをカバーし合うという「実務的な連携」のことである。仲が良くても互いの仕事に無関心なチームに協調性はない。逆に、ドライな関係であっても、目的達成のために互いの死角をカバーし合えるなら、それは極めて協調性が高いチームである。

そして、カバーは双方向である。助ける力だけでなく、自分が困ったときに抱え込まず、気軽に助けを求める関係性の構築も、チームを回す協調性のうちだ第15章参照)。

介入の所作:「静かな貢献」に光を当てる

こうした実務的な協調性を育てるためのリーダーの作法は、部下が同僚をカバーしたその瞬間に「光を当てる」ことだ。

自分の仕事だけをこなす個人主義に陥らせないためには、部下が誰かを助けたという事実(静かな貢献)を見逃してはならない第90章参照)。その事実を捉え、本人にそっと、「〇〇さんをフォローしてくれて助かった。あのサポートが、チームの目的達成にすごく効いていたよ」と言葉で伝えることだ。「役に立つ」とは目的の達成に対して効果があることだ、と第4章で述べた。その定義どおり、貢献と目的を結びつけて伝えるのがコツである。

リーダーが「チームのためのカバー行動」をきちんと見て、評価しているというメッセージを発し続けることで、部下の中に「自分のタスクだけでなく、チームの目的に貢献することが求められているのだ」という判断軸が定着していく。

なお、ここで言う協調とは助け「合い」である。特定の誰かが一方的に助け続けているなら、それは称賛の場面ではなく、業務配分を見直す場面だ。

「自分事」の範囲をチーム全体へ広げる

前章(第96章)で、部下に仕事の結果を直視させ「責任感(当事者意識)」を育てると述べた。協調性を育てるということは、その「自分事の範囲」を、個人のタスクからチーム全体へと押し広げる作業に他ならない。

「自分の仕事は終わりました」で立ち止まる部下に、「他に滞っているところはないか?」と問いかけ、視座を一段引き上げる。この繰り返しが、真にチームに貢献できる部下を育てる。そしてこの意味でなら「俺は群れるのが嫌いだ」というタイプでも協調性をはぐくむことができる。

まとめ:AI時代にこそ「人と上手くやっていく力」を育てよ

情報収集や説明資料の作成といった業務は、AIの普及により、いまや上司が指導するよりも部下の方が的確にこなせる時代になりつつある。

一方で、互いの仕事をカバーし合い「人と上手くやっていく力(協調性)」は、AIがどれほど高度にエージェント化しようとも決して必要性が低くなることはない。むしろこれからの時代において、より一層重視されるべき能力ではないだろうか。

だからこそ、リーダーは自覚的にこの「協調性」を部下に身につけさせなければならない。部下の協調性は、それを見て取れる上司の下でしか育たない。見る目を磨くのは、こちらの仕事だ。

次章予告

一般の部下には「協調性」を求めた。次章では、課長の右腕となる「係長」の育成について記したい。

読者への問い

あなたは部下の「協調性」を、性格や仲の良さの問題として片付けず、AI時代にも通用する「チームに貢献する実務能力」として育てようとしているだろうか。

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