第八章 人事評価と部下育成 第100章 できるまで支える ― 教える技術とリーダーの役割

人事評価

「できるまでが教える側の仕事」という意識を持てたとしても、実際にどう教えればいいのか。ここでも日常業務の中で誰もが実践できるシンプルな原則だけ記しておきたい。

教える技術その1:「Step by Step」で刻む

第一は「Step by Step」方式だ。一度に全てを覚えさせるのではなく、小さな手順を区切って教える第35章参照)。電話応対を例にすれば、最初の一週間は「自社の名前と自分の名前を名乗る+相手の所属と名前を確認する」、その後「用件を聞く」「担当に取り次ぐ」と段階を分けて教える。最初から完璧を求めれば、受け手は混乱し、結局身につかない。

小さな成功体験を積ませることが、結果として最短距離になる。

教える技術その2:「どこが難しかった?」と問う

第二は「どこが難しかった?」と問いかけることだ。これは相手に振り返りをさせ、つまずきを言語化させるための質問である第95章参照)。単に「うまくできなかった」と言わせるのではなく、「担当部署が覚えられなかった」「手順を飛ばしてしまった」と具体化させる。課長や先輩はその答えをもとに再度指導する。こうして教わる側が自分の課題を把握できれば、学びの効率は格段に上がる

リーダーの役割:思想を共有する

次に、リーダーの役割として大切なのは「思想の共有」である。「できるまで支える」という思想を課長だけが持っていても現場は回らない。まずは、人事異動などでメンバーが入れ替わるタイミングで、明示的に「できないのは、まずは、教える側の問題だからな」と伝えることが必要だ。

そして日常のちょっとした場面もチャンスである。例えば誰かが「また同じこと聞かれた」とこぼしたとき、課長が「君はそれ詳しいんだから、できるまで支えるのも仕事だよ」と軽く返す。そうした一言が繰り返されることで、チーム内に少しずつ新しい常識が根付いていく。

もっとも、教える側にしてみれば、自分の時間を削られる話でもある。だからこそ共有すべきは、損得勘定そのものだ。損して得取れ、である。先に教え込んでおけば、後々は自分が楽になる。係長が育てば課長が楽になるのと、まったく同じ理屈だ。戦力化こそが、成果への早道なのである。この感覚を課長だけでなくチーム全体で共有できたとき、「できるまで支える」は精神論ではなく、合理的な選択として根付いていく。

課長自身も、例外ではない

忘れてはならないのは、課長自身も例外ではないということだ。「何度も言わせるな」と叱りたくなる場面は多いと思う。だが、そこでこらえて「どこが難しかった?」「どうすれば次はできるか?」と、いっしょに考える姿勢を見せる。思想を説くより、行動で示すことの方がはるかに力を持つのだ。

くどいようだが、職場で人を教えることは「余計な仕事」ではなく、チーム全体の成果を最大化するための投資である。それがやがて自律したチームをつくる。そしてその起点になるのは、課長自身だ。

次章予告

次章では、中途採用社員についてコラムを記します。

読者への問い

あなたは、部下がつまずいたとき、「またか」と思う前に「どこが難しかった?」と聞けているだろうか。

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