「上司は部下の日頃の仕事ぶりをよく観察し、客観的に記録し、それをもとに評価する」。人事評価研修で講師が言うセリフだ。しかしながら、前章(第87章)で書いた通り現場感覚でいえば「それができる上司はいるのか?」というのが正直なところだろう。
課長から係員は「見えない」のが構造である
ちなみに私には30名ほどの部下がいるが、4つの係に分かれており、それぞれ係長がいる。このように課に複数の係があるような組織では、課長が係員一人ひとりの働きぶりまで逐一把握するのは、物理的にも構造的にも難しい。課長が日々接しているのは主に係長であり、係長が係員を見て指導するという分業体制が基本だ。必然的に、課長から見える情報は係長経由のものや、直接関わる場面に限定される。
その現実との折り合いのつけ方こそが、評価に向き合う第一歩になる。
係長と「共通のレンズ」を持つ
この構造の中で有効なのは、課長と係長が評価の観点や項目について、あらかじめ解釈をすり合わせておくことだ。これは課長が独力ですべてを把握するよりも、ずっと現実的で、かつ有効な方法である。
たとえば、「協調性」とはどのような言動を指すのか。「積極性」とはどの程度の行動を求めるのか。評価項目は同じ言葉であっても解釈はまちまちだ。これを放置すれば、公平性も育成の方向性もぶれてしまう。課長と係長が同じレンズを持ち、共通の観点で部下を見ようとすることが、組織の一貫性を支える。
これは、第6部で述べた「上司を経営資源として活用する」という発想の裏返しでもある。上を使うのと同じように、評価においては係長を「現場を見るもう一組の目」として活用するのだ。
解釈の共有が、係長の報告を変える
また、解釈を共有することで係長の報告も変わってくる。「〇〇さんは今期、他係との調整で粘り強く協調性を発揮していました」「△△さんは一歩引きがちで積極性が課題です」というように、評価項目をベースにした具体的な情報が、良い面も課題も含めて課長に届くようになる。
すべてを見られなくてもやむを得ない。しかし「見るべきポイントを共通化する」ことはできる。課長がすべてを把握できない以上、係長との「どう見るか」の合意形成こそが、適切な評価と育成の最低限の仕組みになる。
そして、これは同時に係長の成長につながる。コラム「評価されることを知らずに働いていた」に書いたように人事評価はやってみて初めてわかることがたくさんある。人事評価の視点で部下を見る経験は、係長にとって管理職昇任に向けた実践的訓練になる。
読者への問い
あなたの職場では、評価項目の解釈や観点について、係長とどれくらい共有できているだろうか。
次章予告
次章では、「では実際に、どんな観点で、どのように観察していけばよいのか」を考えたい。評価項目が多すぎて整理しきれないという現場の悩みに焦点を当て、評価の合理化と実効性を高めるための私なりの視点を提案する。
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